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徳島地方裁判所 昭和24年(行)27号 判決

德島県名東郡国府町府中三百三十番地

原告

原田量三

右訴訟代理人

弁護士

中内二郞

同県同郡同町

被告

国府町長

川野正一

德島市

被告

德島県知事

阿部五郞

右指定代理人

馬詰和夫

右当事者間の昭和二十四年(行)第二七号町民税賦課処分無効確認事件につき当裁判所は次の如く判決する。

主文

原告の被告德島県知事に対する訴は却下する。

原告の被告国府町長に対する請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告等の原告に対する昭和二十三年十一月二十六日賦課の町民税及び県民税賦課処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、被告は昭和二十三年十月二十三日国府町民税賦課基準変更の件を議案第四十二号として同町議会に附議して、均等割百分の十五、住宅割百分の十、前年度町民税割百分の四十五、見立割百分の三十なる賦課基準を定め、次で右基準によつて同年十一月二十六日原告に対し町民税並に之に基き算出した県民税を賦課して来た。然しながら地方税法第百四條には、市町村民税は左に掲げる者に対し所得の情況、資産の情況等を標準とし均等割を加味して之を課する旨規定してあるに拘らず国府町税賦課徴收條例第四條は「町民税、納税義務者、概算資力見立に依り之を課す」と規定し前記国府町の町民税賦課基準と共に地方税法所定の所得の情況及び資産の情況を標準として居ない。又右町民税賦課基準によれば独立税である町民税の課税標準として前年度町民税額をとつているが右は独立税の本質に戻り何れも地方税法に違反するものである。

叙上の如く右賦課基準及び町條例は共に地方自治法第二條第六項の法令違反に該り同條第七項により何れも無効であるから之等無効な條例及び賦課基準に基く町民税の賦課も当然無効と謂わなければならない。

従つて之等無効な町民税を基準に算定された県民税も亦当然無効である。仍つて原告は被告に対し異議申立を為したる処被告は之に対し却下の決定を為したので原告は更に德島県知事に対し昭和二十四年一月十八日訴願をしたが德島県知事は四ケ月余り経過するもその訴願に対する裁決をしないので茲に本訴請求に及んだものであると陳述し被告知事の抗弁に対し被告町長の本件処分に対し異議並びに訴願をしたのであるから、課税標準を同一にする被告知事の本件処分に対しても法律上異議の申立があつたものと見做されるべきであると答え立証として甲第一号証を提出した。

被告国府町は本案前の抗弁として原告の訴却下の判決を求めその理由として町民税の賦課に違法がありそれによつて権利を侵害されたとする者は町長に異議申立を為しその申立に対する決定に不服のある場合は更に県知事に対し訴願を為しその訴願に対する県知事の裁決を受けた後始めて裁判所に出訴し得るものであることは地方税法第二十一條の規定する所である。然るに原告は本件賦課に関し德島県知事に訴願しその裁決を受けずして出訴したのであるから本訴提起は不適法として却下を免れないものであると述べ、次に本案につき原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張の如き国府町民税賦課基準が定められたこと及び被告が右基準に基き原告に対し町民税並に之に基き算出したる県民税を賦課した事実及原告主張の如き町條例の存することは何れも之を認める。併し右町條例は德島県よりの指令によつて定められたもので他町村に於ても同様の條例を定めて居り同條例に定める「概算資力」は地方税法第百四條の所得の情況、資産の情況等を含めた意味である。又賦課基準は均等割、住宅割、前年度町民税割、見立割を標準とすることに定められたものでこれが賦課処分にあたつては現住家屋の賃貸価格前年度町民税によつて各納税義務者の資産並に所得の情況を把握し尚狹義の見立によつてその不備を償い適正な賦課額を算出したもので何等地方税法第百四條に違背するものではない。

殊に租税の賦課処分に不服ありとして訴を提起するには自己の権利が該賦課処分により侵害された場合でなければならないのであるが、原告にはこれが侵害された事実が存しないのであるから訴提起の利益が存しない、又仮りに町民税の賦課手続又は内容に違法の点があつたとしても町税の賦課は当然無効と言うことはない。従つてその取消又は変更を求めるならば格別無効確認を求めるが如きは失当であると述べ甲第一号証の成立を認めた。

被告德島県知事は本案前の抗弁として原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め本案につき原告の請求棄却の判決を求め答弁理由として德島県における県民税については県税賦課徴收條例第五條第七條の定むるところに従つて県民税の賦課総額を決定しこれを市町村に配当し市町村においては地方税法第五十一條の規定に基き市町村税賦課徴收條例の定むるところに依りこれを納税義務者に賦課したものでこれが賦課に何等の違法はない。加之賦課処分に違法錯誤があると認めるときは地方税法二十一條により徴税伝令書の交付を受けた日から三十日以内に府県知事に異議申立をなしこれが異議決定に不服あるとき始めて裁判所に出訴することができるのであつて本訴は右の前審手続を経由していないから不適法があると述べた。

理由

昭和二十三年十一月二十六日被告等がそれぞれ原告に対して町民税、県民税の賦課処分を為したことは被告町長に於てこれを自認し、被告知事も亦明にこれを争わないところである。原告は右の賦課処分は当然無効でありこれが確認を求むるものであると謂うのであるが、被告等は原告の本訴提起は訴願手続を経由しない不適法なものであると抗争するから本訴の適否につき按ずるに行政処分の違法を主張してその処分の取消を求むるには当に訴願経由の要あること勿論であるが、処分の当然無効確認を求むるには出訴期間の制限又は訴願経由の要あることなく又相手方たる当事者も地方団体若は行政庁等適宜之が確認の利益ある者を被告として選びうるものと解すべきを以て被告等行政庁に対して訴願経由せずして為された本件無効確認訴訟には違法の廉はないから被告等のこの点に関する抗弁は理由がない。仍つて進んで本案につき検討するに原告の掲げる本件賦課処分の無効原因は国府町税賦課徴收條例第四條の町民税は納税義務者の概算資力の見立により賦課する旨の規定及び昭和二十三年十月二十六日制定せられた同町民税賦課基準の均等割、住宅割、前年度町民税割、見立割により町民税を賦課する旨の規定は地方税法第百四條の所得の状況、資産の情況等を標準として均等割を加味して住民税を課する旨の規定趣旨に違反しているものであるからかかる違法法令に基く賦課は当然に無効であるというのであるが、凡そ処分の違法により処分の無効を来すのはその違法が重大にして且客観的に明白なる場合にのみ生ずるものと解せられるべきところ、前叙原告の主張自体に徴するも、右條例等が仮りに地方税法第百四條の規定趣旨に副わぬとするも右條例等に基く町民税の賦課処分が重大な瑕疵を包含する当然無効のものとは謂いえないから原告の被告町長に対する請求は理由はなく、従つて町民税と同一課税標準を採る県民税につき賦課処分の無効確認を求むる被告知事に対する請求も理由がないものとして何れも棄却さるべきものとする。

しかし原告は本件町民税の賦課処分に対し異議訴願の申告をなしたと主張するものであるから原告の訴旨は違法処分の取消を求めるにあるものとして更に検討するに、被告等は何れも本案前の抗弁として前叙訴願経由手続を欠く不適法な訴として却下せらるべきであると主張するところであるが、原告は本件町民税の賦課処分に対して被告町長に異議申立を為しこれが却下決定に対して昭和二十四年一月十八日被告知事に訴願したが三ケ月を経過するもその裁決がなかつたので原告に於て本訴を提起したことは当事者弁論全旨に徴して明かである。従つて原告が訴願裁決を経ずして提起した本訴は行政事件訴訟特例法第二條に則り被告町長に対する関係部分においては適法であるから、この点に関する同被告の抗弁は理由がない。併し本件県民税の賦課処分については被告知事に対して異議申立のなされなかつたこと原告の自認するところであるから昭和二十四年五月三十一日法律第一六九号による改正前の地方税法第二十一條(本件行為当時の法令)に徴し被告知事に対する本件訴は不適法たるを免れない。

尤も原告は県民税は町民税と課税標準を同一にするものであり、既に町民税について異議訴願が適法になされた以上県民税についても異議申立のあつたものと見做さるべきであると謂うけれども争訟についてはその手続は嚴正に解釈すべく、仮令本件県民税につき被告町長において税額を決定したとしてもそれは町民税とは別個の処分であり、且その処分当時の地方税法によればこれに不服ある場合は知事に対して異議申立を為すべく明定してあるものであるから町民税に対する異議申立が同時に県民税の異議申立を包含するものとは解し得ない。従つて被告知事に対する原告の本訴は不適法として却下さるべきである。

次に進んで被告町長に対する本案につき検討するに当事者間に争のない前顯被告町税賦課徴收條例第四條において町民税は納税義務者の概算資力の見立により課税する旨の規定は地方税法第百四條の規定に徴し必ずしも整備せられたものとは謂えないけれども昭和二十三年十月二十六日改定せられた国府町民税賦課基準においては均等割、住宅割、前年度町民税割、見立割を町民税の賦課基準としていることの当事者間争のない事実に徴すれば、右基準に基いて為された町民税の賦課は直ちに違法であるとはなし難い。原告は前年度町民税を賦課基準にするは違法であると抗争するけれども被告町長が専らこれのみに依て原告に対して賦課処分を為した事実はこれを認める証左なく且前顯町税賦課徴收條例及前顯基準の文意を検討すればこれを以て一つの資産所得の推計資料としたものと解されるからこの点に関する原告の主張は謂れがない。加之凡そ賦課処分に関する異議訴願訴訟制度の認められた所以は専ら被処分者の権利利益の救済制度として設けられたものであつて、賦課処分の適正を意企して設けられた制度ではないのであるから原告において被告町長の本件処分が原告の利益又は権利の毀損乃至はこれが原告において訴提起につき正当な利益の存する旨の主張立証のない本件においては所詮原告の本訴請求は失当たるを免れないからこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 今谷健一 裁判官 村崎満 裁判官 三木光一)

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